2007/02/21

わが道 <1974/日本>

わが道 <1974/日本>

★★★★★★★★☆☆ (8points)

はい、これすごいです。こういうのをドラマって言うんですよ。


極端なナナメ目線であることは百も承知ですが、私はこの映画、ある意味、究極のエロ映画だと思います。

死んだ旦那(殿山泰司)の身体(死体)を粗末に扱ったことに憤る妻(乙羽信子)。

これをまっすぐに観れば、それが物体としては死んだ身体であったとしてもそれは過去に人間の魂を入れていた入れ物であって、人間の尊厳はそこにまでちゃんと及ぶ、それを粗末に扱う(医大の解剖実験に勝手に使う)なんて許されん、告発してやる、っていう一般的な話になる。それは分かる。その目線でいうと、これ、普通の”社会派”の物語。

”社会派”ドラマとしても、これ、一流です。でもね、なんかそこに収まらない不思議な情念の深さのようなものがある感じがして、それがこの映画の奥行きになっている気がした。そして、どちらかというと自分はそっちに痺れたんだよね。

で、それって何なんだろうって考えてみると、ここだいぶ飛ぶと思いますが、社会的に許される許されないなんていう一般的な善悪のレベルじゃなくて、妻の旦那の身体に対する性愛レベルの情念じゃないかな、と。旦那の身体は私のもので、私はその身体をこれまでも愛でてきたし、たとえそれがただの有機物になったとしても、今も愛している。人間の尊厳とかそういう小難しいことは分からないけど、とにかく、私が愛した夫の身体を私に返せ。

東北の田舎で暮らす老いた妻(乙羽信子)が東京にまで出張っていって、役人たちを告発する。そこまでのことを妻にさせる駆動力は、尊厳うんぬんなんていう社会派の憤りじゃ足りなくて、何か別のもっと深い部分の情念が必要、だと思うわけ。で、ごく個人的な性愛に端を発する情念と怨念をそこに補完する。それって、私にはすっごく納得できた。

客観的な視点と主観的な視点とが明に暗に絡み合った素晴らしい物語。こういうのをドラマっていうんでしょうね。