2008/05/03

鰐 -ワニ- <1996/韓国>

鰐 -ワニ- <1996/韓国>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

大好きなベクトルの映画。清濁併せ呑む、というよりもむしろ、99%の濁の中にこそ1%のそれこそ純度の極めて高い結晶化した清がある、というロマンティシズムの極致。

突然ですが、ギドクを好きだと公言できる人間に悪い人はいません。断言します。だって、その人って、おれってロマンチック、って人前で言ってるのに、それを言ってしまうほどロマンがないことはないってことに気付かないほどとっても素直な人なんだから。

でもね。そうと分かりつつ、やっぱり、わたし、好きです。ギドク。

人間てさ、やっぱり、こうだよね、って何の根拠もないんだけど、妙に納得させられます。

で、やっぱり、映画って人間を描かないと駄目だよね、ってこれまた何の根拠もないんだけど、そう思わされます。

2007/05/15

明日、君がいない <2007/オーストラリア>

明日、君がいない <2007/オーストラリア>

★★★★★★★★☆☆ (8points)

スゴイ映画を観ました。去年のカンヌでは上映後20分間のスタンディング・オベーションが起こったらしいけど、これ観た後、すぐ立ち上がれる人は、そもそもこの映画がちゃんと理解できてない人なんじゃないだろうか?

現在公開中のこの映画。観に行きました。

物語はこんな感じ。

映画の冒頭で、あるオーストラリアの平凡な高校で、午後2時37分に、誰かが自殺したことだけ、知らされる。で、その後は、その高校に通う男女の生活がその日の朝から時間軸にそって淡々と描かれる。両親からの過度の期待に押し潰されそうになる優等生のマーカスやら、その妹で両親のいない時の兄の変貌振りに怯えるメロディーやら、マッチョをきどりつつも実はゲイのルークやら、ゲイ&ジャンキーのショーンやら、いじめられっこ&転校生のスティーヴンやら。1人1人それぞれ色んな悩みを持っていて、もう誰が死んでもおかしくない。その意味じゃ、ある意味、これ、犯人探しのサスペンスとおんなじ構成。他殺が自殺に変わっただけ。

でね、前半、というか、最後10分を除き、全部、超退屈。だって、彼ら/彼女らの悩みってやつが、それぞれにとってはそれはそれは大変な問題なんだろうけど、こう言っちゃなんだけど、全部、普通。「そういうの、昔、さんざん観たよ、野島伸司のドラマで」って感じで、既視感にあふれる。「あぁ、下らねぇ映画観ちゃったな」ってその時点でちょいと後悔。

でもね。最後の最後で…、はい、まんまと騙されました。おじさん、たまらず、「えぇッ」って声出ましたよ、映画館なのに…。

で、もうその後は、エンドロール終わっても、立てない…。ほんの10分前までは、「野島伸司かよ…ッ」と上田晋也ばりの華麗なるツッコミをちっちゃくつぶやきつつ、エンドロール始まったらすぐに颯爽と出て行ってやろうと思っていたのに…、そもそも立てない…。

思い切りネタばれになるので、ここから先は書きませんが、とにかくこれは観といた方がいいです。

 ※ちなみに、まだ渋谷のアミューズでやってる、はず。

プラダを着た悪魔 <2006/米>

プラダを着た悪魔 <2006/米>

★★★★★☆☆☆☆☆ (5points)

可もなく不可もなし。毒にもならず薬にもならない。暇つぶしにはもってこい、ですな。

ファッション誌のカリスマ鬼編集長(メリル・ストリープ)のアシスタントにふとしたきっかけでなってしまったジャーナリスト志望の女の子(アン・ハサウェイ)が、怒られ、いびられ、いじめられながらも、アシスタントとしての仕事をおぼえ、まるで興味のなかったファッションにも徐々に目覚めていく…、である地点までできるようになると、ふと我に返って、「あれ、一体わたしは何がしたいの」と自分探しを始める…。

まぁ、なんて、ありがちな物語なんでしょ(書いててこっちが恥ずかしくなるくらい)。

でも、一応、最後まで観ちゃいました。だって、観てて疲れないから。

テンポもいい。ストーリーもこっちの予想をまるで裏切らないので頭使う必要がない。アン・ハサウェイはかわいい。

要は、ぼけっと、ファッション・ショーを2時間見てる感じ。

ということで、本作、観た後に何も残りません(個人的にはジミー・チュウを憶えたくらい)。でも、そもそも、映画観て何かを残そうと思うこと自体、ロマンチック過ぎると考える方々には、うってつけの映画でしょう。

2007/05/11

劇場版アニメーション 時をかける少女 <2006/日本>

劇場版アニメーション 時をかける少女 <2006/日本>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

うん、悪くない悪くない。ジブリが最近こけまくってるので、久しぶりにこの手のアニメで良質なものを観た感じがする。

評判通りですね。いいです、これ。

あんまりアニメ観ないから、何がいいのか、うまく言えないんだけど、たぶん、この映画、「引き算」ベースで作ってるんだと思う。で、それがとてもうまく機能したんだと思う。

つまりね、たぶんこの映画の主題は「時間ってものの人知を超える謎を身をもって体験してしまった人間の”前向きな”諦観」でしょ。理解できない不条理を、生まれて初めて体験した子が、どうやってそれを受容し、乗り越えていくか、ってことでしょ。で、とにかくそこを焦点化するために、それ以外の部分については、黒子に徹する。ありきたりな絵、ありきたりな声、ありきたりなセリフ。それら陰の部分によって、アニメにしてはありきたりじゃない奥行きのある物語を浮き立たせる。作戦がばっちり決まっていますね。

こういう筋肉質な映画を観ると、なんかすがすがしい気持ちになります。この監督(細田守)については、次回作も期待できそうです。

パッチギ!LOVE&PEACE <2007/日本>

パッチギ!LOVE&PEACE <2007/日本>

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ (採点不能、つーか採点したくない)

あぁぁ。がっかりし過ぎて、何も言えない。あぁぁ…。

前作「パッチギ!」は実は私の「心のベストテン第一位」(古い…)なんですよ。あまりに好き過ぎて、レビューなんて書けないくらい。たぶんもう30回以上は繰り返し観てて、そのたんびに、泣かされてる。

で、その続編のこれ、試写会行って来ました(ずいぶん前だけど)。

…空いた口が塞がらない、ってのはこういうことを言うんでしょうね…。あまりの駄作ぶりに唖然とした。

ネット上では、反日感情がどうの、歴史認識がどうの、って相変わらず喧々諤々、不毛な議論が前作同様、巻き起こっているみたいですが、そんなことはどうでもよくて…、”映画として観て”、これ、救いようのない駄作です。

物語が全部中途半端で焦点なし。せっかく、父親との血の繋がりやら、息子の病気やら、芸能界でのキョンジャの苦悩やら、おいしいネタがこんなにあるのに、全部、ちゃんと料理できず。

役者も役者でこれまたどうしようもない。アンソン役の井坂俊哉はただの気のいいあんちゃんで、なんかウルトラマンなんちゃらのなんちゃら隊員とかで出てきそうな感じ。キョンジャ役の中村ゆりはたしかにかわいいんだけど、かわいいだけ。明らかに意図してやってるアヒル口がやたら鼻につく…(笑)。

やっぱりさ、「パッチギ!」は青春映画であるべきなんだよ。3作目、作ってもいい。でも、頼むから、安易に物語を先に進めずに、「岸和田少年愚連隊」方式に変えてくれ。…でも、たぶん、もういくらやっても駄目でしょうね、これじゃ。1作目は奇跡だったんだ、と自分に言い聞かせて、これだけをこれからも観ていくことにします…。

はぁ。

ヨコハマメリー <2005/日本>

ヨコハマメリー <2005/日本>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

リアル嫌われ松子。逆説的だけど、これぞ映画です!

前から気になっていたこのドキュメンタリー。でもなんか、覗き見趣味のような不純な動機で観る自分も嫌だよなぁ、とか、横浜なんて別になんの思い入れもねぇし、とかなんだかんだで言い訳しつつ、なかなか手が伸ばせなかった、このドキュメンタリー。

意を決してようやく観ました。

結果はね、もうなんでもっと早く観なかったのか、ってほんと後悔した…。

手法はたしかにドキュメンタリーなんだろうけど、これぞ、映画ですよ。もう最後は泣けて泣けて仕方なかった。

話の筋はこんな感じ。

かつて、娼婦として横浜の街に立つ白い化粧に純白のドレスの老婆がいた。彼女のことを、人は、「メリーさん」と呼んだ。そんなメリーさんが、1995年に忽然と、横浜の街から消えてしまう。

で、メリーさんの人生とはどんなものであったのか描こうとしていくドキュメンタリーなんだけど、面白いのは、メリーさんの人生をメリーさん自身の言葉で語らせるのではなく、メリーさんに繋がる他の人間の言葉で語らせるとこ。ポジティブに語る人、ネガティブに語る人、実際にメリーさんと直接触れ合ったその感触を語る人、ただの噂レベルの伝聞情報で語る人、メリーさんを語りながらも次第に趣旨を忘れて自分の若かりしころの思い出話を始める人…。もう多種多様。でも次第にその雑多な言葉の集合が、メリーさん(の像)を紡いでいく。で、そこに横浜の風景の中に写るメリーさんの写真が頻繁に挿入される。はぁ、こういう不思議な人が昔いたんだなぁ、と、そんな感じ。

でね、そこで終わってたら、これ、ただの都市伝説ですよ。でもね、この映画、最後の最後で、そういう薄っすらとしたイメージ(メリーさん像)を無意味化する(どうでもいいものにする)圧倒的な映像を持ってきます。それが何かはネタばれになっちゃうので言わないけど、ここがこの映画の主題でしょう。やや冗長な中盤をこらえにこらえて、頑張ってでも、観るべきです。うまく言えないので、やたら大袈裟な表現になっちゃうけど、人が生きてるってことの重みというか厚みというか、そういうものをこれだけ訴えかける映像を、私は、これまで観たことがない。神々しいとまで、私は思いました。

この映画、真実を追究する類のドキュメンタリー、もしくは、社会問題を告発する類のドキュメンタリーとして観てしまうと、たしかに超駄作です。だって伝聞情報そのまま載せちゃってるし、路上生活者たるメリーさんの悲哀なんてまるでちゃんと描こうとしてないし…。

でもね、これ、映画として観たら、間違いなく傑作ですよ。マージナルな人のマージナルな人生をこれほど真摯に正面から描いた映画を私は他に知りません。

※ここまで褒めちぎっといて7点なのには訳がありまして…。インタビューに答える五大路子(メリーさんを題材にした1人芝居を演じる女優)があまりに芝居がかってて、うざい。他の登場人物全て、素の自分で語ってるのに、彼女だけ、違う。明らかに浮いてる。マージナルな対象たるメリーさんに私はこんなにスポットライトを当ててます、しかもこんなに柔らかくて暖かいスポットライトを当ててます、こんな私って、偉くないですか?みたいな嘘っぽさをどうしても感じてしまう。藤原紀香が醸し出すのと同じ嫌らしさを感じる。他がいいだけに、なんでこんな薄っぺらい人間を差し込んじゃったのか、不思議でしょうがない…。

2007/04/25

シュガー&スパイス 風味絶佳

シュガー&スパイス 風味絶佳 <2006/日本>

★☆☆☆☆☆☆☆☆☆ (1point)

誰か教えて下さい。どうやったらこんな映画が公開できるのでしょう?

おいおいおいおいおいおいおい…。これはなんでしょう…。ここまで駄目だと、逆にワクワクしますね。一体どこまでやってくれるのかって…。

いつまでたっても「誰も知らない」を越えられない柳楽優弥に、いつまでたっても「パッチギ!」を越えられない沢尻エリカ。脈絡のないチェン・ボーリンに、1人浮いてる夏木マリ。頑張ってるのにいっこうに笑えないコメディに、センスの欠片もないセリフ。テレビドラマそのものの絵と、テレビドラマそのもののベタな展開。

ちょいと想像してみて下さい。柳楽優弥のあのボソボソっとした声でこういうナレーションが入る。

 いやよいやよも

 好きのうち

 っていうのは

 おとこの勝手な

 いいぶんなわけで…

鳥肌立つか、爆笑するか、どっちかでしょ、これは…。

頼む。頼むから、こんなどうしようもない映画に、あの奇跡のアンソンとキョンジャ(@パッチギ!)を一緒に出さないでくれ。

2007/03/23

SPUN <2004/米>

SPUN <2004/米>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

いい!”この手の映画”の中では、ひっさびさに、いいッ!

”この手の映画”ってひと括りにしちゃうのもどうかとは思うけど、なんとなくこういうジャンルってあるよね。古いとこだと「トレインスポッティング」、新し目だと石井克人「Party7」やら関口現「サバイブ・スタイル5+」。

このジャンルの中では、ほんと久々に良い!期待値の低さに助けられた感はないわけじゃないけど、それにしても、いい!!

この手の映画ってね、完全に私見だけど、「どこまでお馬鹿になれるか」っていう突き抜け具合と、「どこまで生活の痛さを描けるか」っていう切なさ具合のバランスが肝でしょ。ただ馬鹿やってても「ばかだねぇ~」で終わっちゃうし、痛いだけの映画なら腐るほどあるし。しかも、ちゃんと馬鹿やった上でじゃないと、痛さをちゃんと描けないってこともあるし。

でだ。

上に挙げた「Party7」も「サバイブ・スタイル5+」も嫌いじゃないんです。つーか、むしろ、好きの範疇に入る。でもね、なんかこう、煮え切らないというか、もう一息というか、もうちょい頑張れよ、というか、まあ、なんか足りないものを感じていたわけ。

で、この映画観て、何が足りてなかったのか、ようやく分かった。

「Party7」も「サバイブ・スタイル5+」も、ただ、馬鹿やってるだけなんだよね…、結局は。

その昔、「トレインスポッティング」に感じた思いとおんなじものを、このSPUNから受けた。そして、それって、上に書いた「お馬鹿」と「痛さ」の絶妙のバランス感覚なんだろう、とそう思う。

前半戦の突き抜け具合(ジョン・レグイザモのチ○コ靴下なんて、もう最高じゃない)と、後半戦のなんとも言えない痛さと切なさ(ブリタニー・マーフィーとジェイソン・シュワルツマンがドライブしながら、徐々にお互いの内面を吐露し合う…でも、お互いに自分の本当に言いたいことを吐き出しているだけなので、コミュニケーションは成立しない…なんて、もぅ…素敵すぎる…)。かと言って、「笑えて、泣ける」なんて安直なところには回収させず、むしろ「笑えないし、泣けない」…。でも、なんか、妙な重いものが心の底に残っている、そんな感じ。

お勧めです!

2007/03/22

イーオン・フラックス <2005/米>

イーオン・フラックス <2005/米>

★★★☆☆☆☆☆☆☆ (3points)

「シャーリーズ・セロン、綺麗だねぇ~」としか言えない映画。「それでも見る価値あり」、とはわたしには口が裂けても言えません。

大好きなシャーリーズ・セロン。サイダー・ハウス・ルールで惚れて、モンスターに痺れた。そんな彼女が、今回はSFアクション…。嫌いなんだよね、このジャンル。物語がないから。ってことで、だいぶ心配しつつ、鑑賞。

結果、あぁ、やっぱりね。心配した通りじゃん。

無意味なアクションに、ありふれたSF。はいはい、もういいよ、わかったからさ。

「今ここ」でないもの、「今ここ」にないもの、「今ここ」にいない人、を創作しようとする映画なんだからさ、映画の出来の全ては、製作者の想像力にかかってるわけですよ。で、逆に言うと、それが分かった上でこの映画作ってんだから、製作者は自分(たち)の想像力に相当自信があるんでしょ。…でも、これ、なによ?子供でも思いつく、使い古されたイマジネーション、だけしかないじゃん。とってつけたような「クローン」だの「不妊」だのにごまかされるほど、こちとら、お子ちゃまじゃないのよね。

ってことで、本映画、観るところ(=鑑賞に耐えられるところ)は、シャーリーズ・セロン(の美しさ)しかありません、やっぱり。

それしかないことを知った上で、「それでも観る価値あり」と思える人もいるんでしょう。

でも、そこまでいい観客にはわたしはなれませんね…。むしろ、これが「もしシャーリーズ・セロンじゃなかった場合」にどんなに救いようのない映画になってたかって想像しちゃって寒くなり、挙句の果てにそのしょっぱさにちょっと笑えてきて、シャーリーズ・セロンどころじゃありませんでした。

シャーリーズ・セロン、頼むから、出る映画を選んでくれ。

2007/03/19

裸足の1500マイル <2002/オーストラリア>

裸足の1500マイル <2002/オーストラリア>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

悪意ある悪に比べて、善意から来る悪のなんとたちの悪いことか。そんな救いのない悪に比して、子供たちの帰巣本能のなんと純粋で高貴なことか。

逃げて、逃げて、逃げるだけの映画。そこには何のひねりもトリックもない。だからこれを退屈って人も当然いるでしょう。

でもね、この映画、このシンプルなストーリーこそが、命ですよ。

物語がシンプルで、かつ、絵もシンプルなこと。それによって、この映画、以下のアイロニーが浮き上がる仕掛けになってるんだ、と、そうわたしは観ました。

ただ、母の元に帰りたい。だから、たとえそれが遠い道のりだろうが、ただただ、帰る。これ、帰巣本能ですね。私は、彼女たちに、”人間はどこまでいっても結局は動物であり、かつ、結局は動物であるがゆえに人間である”という逆説を見ました。

そして、その子供たちに比した場合の、白人文化の側のなんと非人間的なことか。自らの動物性を否定しよう否定しようとせんがため、文化文明に身を包み、弱者保護のロジックで武装する。しかし、その彼らの「正義」が行き着く先は、ただの圧迫と強制でしかない。”動物性を拒否すればするほどに、人間性からも遠ざかっていく”という逆説。

あぁ、こういう芯の通った根の深い人間の問題をこそ、映画は撮らなくてはならない。小手先のテクニックが先行した映画多き、現在の邦画。人がどんどん入るようになって、いまや、それらしく作ってあれば何でもありみたいな状態にも見える今の邦画の底の浅さが透けて見える。