2007/05/15

明日、君がいない <2007/オーストラリア>

明日、君がいない <2007/オーストラリア>

★★★★★★★★☆☆ (8points)

スゴイ映画を観ました。去年のカンヌでは上映後20分間のスタンディング・オベーションが起こったらしいけど、これ観た後、すぐ立ち上がれる人は、そもそもこの映画がちゃんと理解できてない人なんじゃないだろうか?

現在公開中のこの映画。観に行きました。

物語はこんな感じ。

映画の冒頭で、あるオーストラリアの平凡な高校で、午後2時37分に、誰かが自殺したことだけ、知らされる。で、その後は、その高校に通う男女の生活がその日の朝から時間軸にそって淡々と描かれる。両親からの過度の期待に押し潰されそうになる優等生のマーカスやら、その妹で両親のいない時の兄の変貌振りに怯えるメロディーやら、マッチョをきどりつつも実はゲイのルークやら、ゲイ&ジャンキーのショーンやら、いじめられっこ&転校生のスティーヴンやら。1人1人それぞれ色んな悩みを持っていて、もう誰が死んでもおかしくない。その意味じゃ、ある意味、これ、犯人探しのサスペンスとおんなじ構成。他殺が自殺に変わっただけ。

でね、前半、というか、最後10分を除き、全部、超退屈。だって、彼ら/彼女らの悩みってやつが、それぞれにとってはそれはそれは大変な問題なんだろうけど、こう言っちゃなんだけど、全部、普通。「そういうの、昔、さんざん観たよ、野島伸司のドラマで」って感じで、既視感にあふれる。「あぁ、下らねぇ映画観ちゃったな」ってその時点でちょいと後悔。

でもね。最後の最後で…、はい、まんまと騙されました。おじさん、たまらず、「えぇッ」って声出ましたよ、映画館なのに…。

で、もうその後は、エンドロール終わっても、立てない…。ほんの10分前までは、「野島伸司かよ…ッ」と上田晋也ばりの華麗なるツッコミをちっちゃくつぶやきつつ、エンドロール始まったらすぐに颯爽と出て行ってやろうと思っていたのに…、そもそも立てない…。

思い切りネタばれになるので、ここから先は書きませんが、とにかくこれは観といた方がいいです。

 ※ちなみに、まだ渋谷のアミューズでやってる、はず。

プラダを着た悪魔 <2006/米>

プラダを着た悪魔 <2006/米>

★★★★★☆☆☆☆☆ (5points)

可もなく不可もなし。毒にもならず薬にもならない。暇つぶしにはもってこい、ですな。

ファッション誌のカリスマ鬼編集長(メリル・ストリープ)のアシスタントにふとしたきっかけでなってしまったジャーナリスト志望の女の子(アン・ハサウェイ)が、怒られ、いびられ、いじめられながらも、アシスタントとしての仕事をおぼえ、まるで興味のなかったファッションにも徐々に目覚めていく…、である地点までできるようになると、ふと我に返って、「あれ、一体わたしは何がしたいの」と自分探しを始める…。

まぁ、なんて、ありがちな物語なんでしょ(書いててこっちが恥ずかしくなるくらい)。

でも、一応、最後まで観ちゃいました。だって、観てて疲れないから。

テンポもいい。ストーリーもこっちの予想をまるで裏切らないので頭使う必要がない。アン・ハサウェイはかわいい。

要は、ぼけっと、ファッション・ショーを2時間見てる感じ。

ということで、本作、観た後に何も残りません(個人的にはジミー・チュウを憶えたくらい)。でも、そもそも、映画観て何かを残そうと思うこと自体、ロマンチック過ぎると考える方々には、うってつけの映画でしょう。

2007/05/11

劇場版アニメーション 時をかける少女 <2006/日本>

劇場版アニメーション 時をかける少女 <2006/日本>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

うん、悪くない悪くない。ジブリが最近こけまくってるので、久しぶりにこの手のアニメで良質なものを観た感じがする。

評判通りですね。いいです、これ。

あんまりアニメ観ないから、何がいいのか、うまく言えないんだけど、たぶん、この映画、「引き算」ベースで作ってるんだと思う。で、それがとてもうまく機能したんだと思う。

つまりね、たぶんこの映画の主題は「時間ってものの人知を超える謎を身をもって体験してしまった人間の”前向きな”諦観」でしょ。理解できない不条理を、生まれて初めて体験した子が、どうやってそれを受容し、乗り越えていくか、ってことでしょ。で、とにかくそこを焦点化するために、それ以外の部分については、黒子に徹する。ありきたりな絵、ありきたりな声、ありきたりなセリフ。それら陰の部分によって、アニメにしてはありきたりじゃない奥行きのある物語を浮き立たせる。作戦がばっちり決まっていますね。

こういう筋肉質な映画を観ると、なんかすがすがしい気持ちになります。この監督(細田守)については、次回作も期待できそうです。

パッチギ!LOVE&PEACE <2007/日本>

パッチギ!LOVE&PEACE <2007/日本>

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ (採点不能、つーか採点したくない)

あぁぁ。がっかりし過ぎて、何も言えない。あぁぁ…。

前作「パッチギ!」は実は私の「心のベストテン第一位」(古い…)なんですよ。あまりに好き過ぎて、レビューなんて書けないくらい。たぶんもう30回以上は繰り返し観てて、そのたんびに、泣かされてる。

で、その続編のこれ、試写会行って来ました(ずいぶん前だけど)。

…空いた口が塞がらない、ってのはこういうことを言うんでしょうね…。あまりの駄作ぶりに唖然とした。

ネット上では、反日感情がどうの、歴史認識がどうの、って相変わらず喧々諤々、不毛な議論が前作同様、巻き起こっているみたいですが、そんなことはどうでもよくて…、”映画として観て”、これ、救いようのない駄作です。

物語が全部中途半端で焦点なし。せっかく、父親との血の繋がりやら、息子の病気やら、芸能界でのキョンジャの苦悩やら、おいしいネタがこんなにあるのに、全部、ちゃんと料理できず。

役者も役者でこれまたどうしようもない。アンソン役の井坂俊哉はただの気のいいあんちゃんで、なんかウルトラマンなんちゃらのなんちゃら隊員とかで出てきそうな感じ。キョンジャ役の中村ゆりはたしかにかわいいんだけど、かわいいだけ。明らかに意図してやってるアヒル口がやたら鼻につく…(笑)。

やっぱりさ、「パッチギ!」は青春映画であるべきなんだよ。3作目、作ってもいい。でも、頼むから、安易に物語を先に進めずに、「岸和田少年愚連隊」方式に変えてくれ。…でも、たぶん、もういくらやっても駄目でしょうね、これじゃ。1作目は奇跡だったんだ、と自分に言い聞かせて、これだけをこれからも観ていくことにします…。

はぁ。

ヨコハマメリー <2005/日本>

ヨコハマメリー <2005/日本>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

リアル嫌われ松子。逆説的だけど、これぞ映画です!

前から気になっていたこのドキュメンタリー。でもなんか、覗き見趣味のような不純な動機で観る自分も嫌だよなぁ、とか、横浜なんて別になんの思い入れもねぇし、とかなんだかんだで言い訳しつつ、なかなか手が伸ばせなかった、このドキュメンタリー。

意を決してようやく観ました。

結果はね、もうなんでもっと早く観なかったのか、ってほんと後悔した…。

手法はたしかにドキュメンタリーなんだろうけど、これぞ、映画ですよ。もう最後は泣けて泣けて仕方なかった。

話の筋はこんな感じ。

かつて、娼婦として横浜の街に立つ白い化粧に純白のドレスの老婆がいた。彼女のことを、人は、「メリーさん」と呼んだ。そんなメリーさんが、1995年に忽然と、横浜の街から消えてしまう。

で、メリーさんの人生とはどんなものであったのか描こうとしていくドキュメンタリーなんだけど、面白いのは、メリーさんの人生をメリーさん自身の言葉で語らせるのではなく、メリーさんに繋がる他の人間の言葉で語らせるとこ。ポジティブに語る人、ネガティブに語る人、実際にメリーさんと直接触れ合ったその感触を語る人、ただの噂レベルの伝聞情報で語る人、メリーさんを語りながらも次第に趣旨を忘れて自分の若かりしころの思い出話を始める人…。もう多種多様。でも次第にその雑多な言葉の集合が、メリーさん(の像)を紡いでいく。で、そこに横浜の風景の中に写るメリーさんの写真が頻繁に挿入される。はぁ、こういう不思議な人が昔いたんだなぁ、と、そんな感じ。

でね、そこで終わってたら、これ、ただの都市伝説ですよ。でもね、この映画、最後の最後で、そういう薄っすらとしたイメージ(メリーさん像)を無意味化する(どうでもいいものにする)圧倒的な映像を持ってきます。それが何かはネタばれになっちゃうので言わないけど、ここがこの映画の主題でしょう。やや冗長な中盤をこらえにこらえて、頑張ってでも、観るべきです。うまく言えないので、やたら大袈裟な表現になっちゃうけど、人が生きてるってことの重みというか厚みというか、そういうものをこれだけ訴えかける映像を、私は、これまで観たことがない。神々しいとまで、私は思いました。

この映画、真実を追究する類のドキュメンタリー、もしくは、社会問題を告発する類のドキュメンタリーとして観てしまうと、たしかに超駄作です。だって伝聞情報そのまま載せちゃってるし、路上生活者たるメリーさんの悲哀なんてまるでちゃんと描こうとしてないし…。

でもね、これ、映画として観たら、間違いなく傑作ですよ。マージナルな人のマージナルな人生をこれほど真摯に正面から描いた映画を私は他に知りません。

※ここまで褒めちぎっといて7点なのには訳がありまして…。インタビューに答える五大路子(メリーさんを題材にした1人芝居を演じる女優)があまりに芝居がかってて、うざい。他の登場人物全て、素の自分で語ってるのに、彼女だけ、違う。明らかに浮いてる。マージナルな対象たるメリーさんに私はこんなにスポットライトを当ててます、しかもこんなに柔らかくて暖かいスポットライトを当ててます、こんな私って、偉くないですか?みたいな嘘っぽさをどうしても感じてしまう。藤原紀香が醸し出すのと同じ嫌らしさを感じる。他がいいだけに、なんでこんな薄っぺらい人間を差し込んじゃったのか、不思議でしょうがない…。