2007/02/26

嫌われ松子の一生 <2006/日本>

嫌われ松子の一生 <2006/日本>

★★★★★★★★★☆ (9points)

悲しい話を悲しく描くなら小学生にでもできる。悲しい話を可笑しく描くなら中学生にでもできる。悲劇や悲喜劇へと安易に回収されてしまうことを徹底的に拒む、そんな奥行きのある物語は中島哲也にしか撮れない。

すばらしい!もう何回言ってもいいけど、すばらしい!!

ここ10年の邦画の中でも1,2を争う超名作。もう奇跡でしょう、これは。

でもどうも一般の評価は芳しくないみたいね。いわく、「泣くに泣けない」「笑うに笑えない」。正直、アホか、と思う。どっちに転んでも、この映画、なんの価値もなくなっちゃうじゃん。

思うに。

”悲しい物語にポップな絵を乗せた”のは、わざと。映画が安易な涙(による安直なストレス解消)へと収束化してしまうことを拒絶せんがため。この意味で、映画が悲劇へと回収されてしまうことを否定する。

また、”悲しい物語にポップな絵を乗せて展開する物語の終点に圧倒的な悲劇を持ってきた”のも、わざと。悲しい話を笑いながら消費してしまう安直な悲喜劇に対する否定。観た後に何も残らない「ちゃんちゃん♪」を拒否する。

だから、観客は取り残される。なんとも言えないいやぁな感じが残る。泣けず、笑えず。「だから何?何が言いたいの?」ってどうしても、言いたくなる。

でもさ、”泣けるだけの人生”やら”笑えるだけの人生”なんて、そんなもん、ないでしょう。そして、何を言いたいか、そのメッセージがはっきりしてる、そんな人生なんて、あり得ないでしょう。人の人生は他の人に対して、何とも言えない白黒がはっきりしない曖昧な意味を持ち、人はそれを自分なりに咀嚼して咀嚼して、いい意味でも悪い意味でもそこから学んでいくんでしょう。

その意味で、人の「一生」を描くとしたら、この方法しかないんだよ。もちろん、その”適切な”描き方は今の時代の期待値に合致しないかもしれない。でも、その描き方以外のどの方法も、全てどこか安易な割り切りを前提とする。

難しい道を選択し、それを形にした、中島哲也に最大級の賛辞をおくりたい。

2007/02/25

イノセンス <2004/日本>

イノセンス <2004/日本>

★★★★★☆☆☆☆☆ (5points)

ごめんなさい、おじさんにゃ、何がなんだか、さっぱり。話についていけんかったよ。

この手のアニメって苦手でさ、ずっと喰わず嫌いだったんだけど、一念発起して、いっちょ観てみようかと、そう思って観てみました。

…でもさ、寝ちった。

だって、物語に全くついていけなかったんだもん。

絵が綺麗だし、CGも素敵でしたよ、たしかに。

でも、わたしゃ物語を観るために映画観てる人間なので、物語を理解できない映画を観続けられるほど忍耐強くないんだよね。

2007/02/24

仁義なき戦い <1973/日本>

仁義なき戦い <1973/日本>

★★★★★★★★☆☆ (8points)

最高です。文句なしです。何度観ても痺れますね。

「癒し系の映画」なんてのは言葉としてそれ自体矛盾しておる、とわたしは常々思っています。日常だろうが、非日常だろうが、そんなことは何でもいいけど、ある種のテンションの高ぶり(熱のようなもの)を見せてくれないと、満足できるわけないじゃん、と、まあ、いつもそう思って映画観てます。極論するとね、その熱が向かう方向なんて、なんでもいいのよ。それが、色恋沙汰に向かおうが、暴力に向かおうが、変態に向かおうが。どっちに向かってもいいけど、ちゃんと突き抜けてくれればそれで良し。

その意味じゃ、これ、いつ観ても、何度観ても、その熱に打たれます。エネルギーが向かう先は、終わりのない暴力なんだけど、暴力がどうのこうのの前にまずそのエネルギーの大きさに、痺れます。

うまい説明なんて最初から諦めてますが…、とにかくこれだけは観とかないとまずいでしょう。

しかし、この当時の役者って、みんなすご過ぎる。梅宮辰夫なんて今じゃただのアンナパパor漬物チェーンのオーナーさん(今もあんのかな?)だけど、まぁ~、昔はすげぇ役者だったんだね…。

2007/02/23

フェア・ゲーム <1995/アメリカ>

フェア・ゲーム <1995/アメリカ>

★★★★☆☆☆☆☆☆ (4points)

100%男目線で言うと、シンディ・クロフォードに萌えられるか否か、この一点に全てがかかっている、そんな映画。シンディ・クロフォードのPVでしかありません。

シンディ・クロフォードってたしかに綺麗だけど、ちょいガサツな感じしません?大雑把というか。なので、正直、ちょっと苦手なんですよね、私。一言で言うと、萌えません…。

そんな私には、これ、ただのB級映画にしか見えませんでした。観るべきところはほぼ皆無。気付いたら途中で寝てました。

ま、彼女に萌えることができる男子には、価値のある映画なのかも、とは思う。

でもさ、素朴な疑問なんだけど、こういう映画、そもそも女の人ってどういう目線で観てるんでしょう?

凡庸な物語にチープな映像、とってつけたかのようなまるで萌えないエロ。唯一、シンディ・クロフォードの美貌(あたしゃ、そうは思いませんが)、それだけが救い。そんな映画、女性にとって、暇つぶし以外のポジティブな意味を持つのでしょうか?

2007/02/22

ユーロトリップ <2004/アメリカ>

ユーロトリップ <2004/アメリカ>

★★★★★★☆☆☆☆ (6points)

いやぁ~、馬鹿だねぇ~。笑わしてもらいました。

ハイテンションのマンUサポーター(@ロンドン)、ロボットパントマイムのおじちゃんとのカンフー対決(@パリ)、電車の中のオカマ親父(@イタリア、か?)、極めつけは男だらけ、チ○ポだらけのヌーディストビーチ(@あれはどこだ…?)、笑いましたね。いいね、こういう馬鹿映画。

でも、映画で笑ってもねぇ。あたしゃ、そんなの求めて映画観てんじゃないのよね。2時間近くもこんな下らないものを見続けた自分に対する軽い自己嫌悪を否定できず…。

2007/02/21

わが道 <1974/日本>

わが道 <1974/日本>

★★★★★★★★☆☆ (8points)

はい、これすごいです。こういうのをドラマって言うんですよ。


極端なナナメ目線であることは百も承知ですが、私はこの映画、ある意味、究極のエロ映画だと思います。

死んだ旦那(殿山泰司)の身体(死体)を粗末に扱ったことに憤る妻(乙羽信子)。

これをまっすぐに観れば、それが物体としては死んだ身体であったとしてもそれは過去に人間の魂を入れていた入れ物であって、人間の尊厳はそこにまでちゃんと及ぶ、それを粗末に扱う(医大の解剖実験に勝手に使う)なんて許されん、告発してやる、っていう一般的な話になる。それは分かる。その目線でいうと、これ、普通の”社会派”の物語。

”社会派”ドラマとしても、これ、一流です。でもね、なんかそこに収まらない不思議な情念の深さのようなものがある感じがして、それがこの映画の奥行きになっている気がした。そして、どちらかというと自分はそっちに痺れたんだよね。

で、それって何なんだろうって考えてみると、ここだいぶ飛ぶと思いますが、社会的に許される許されないなんていう一般的な善悪のレベルじゃなくて、妻の旦那の身体に対する性愛レベルの情念じゃないかな、と。旦那の身体は私のもので、私はその身体をこれまでも愛でてきたし、たとえそれがただの有機物になったとしても、今も愛している。人間の尊厳とかそういう小難しいことは分からないけど、とにかく、私が愛した夫の身体を私に返せ。

東北の田舎で暮らす老いた妻(乙羽信子)が東京にまで出張っていって、役人たちを告発する。そこまでのことを妻にさせる駆動力は、尊厳うんぬんなんていう社会派の憤りじゃ足りなくて、何か別のもっと深い部分の情念が必要、だと思うわけ。で、ごく個人的な性愛に端を発する情念と怨念をそこに補完する。それって、私にはすっごく納得できた。

客観的な視点と主観的な視点とが明に暗に絡み合った素晴らしい物語。こういうのをドラマっていうんでしょうね。

2007/02/19

ローレライ <2005/日本>

ローレライ <2005/日本>

★☆☆☆☆☆☆☆☆☆ (1points)

こんな映画を恥ずかしげもなく製作できてしまう国、しかもこんな映画にちゃんと人が入ってしまう国に生まれてしまったことを少々後悔しました。

ひっでぇ~~~~。あまりのひどさに、どこまでやってくれるのか、ちょい興奮した…。

中途半端な恋愛物語(妻夫木聡/香椎由宇)に中途半端な戦闘シーン(金かかってないちゃちなCG)、中途半端なSF(「最終兵器ローレライの中枢は人間」て、おい)に中途半端な国威発揚(俗情に媚び過ぎ…)。

はい、これ、全部一緒に食べて、おいしいと思う人、手挙げてください。

「製作:亀山千広」で、全部納得しましたが…。

もうやめようよ。恥ずかしいから。

2007/02/18

青の炎 <2003/日本>

青の炎 <2003/日本>

★★★☆☆☆☆☆☆☆ (3points)

なんだこりゃ。もう笑っちゃうくらいに全部ダメ。

冒頭から「あれ」っていう違和感があったんだよね、実は。

主人公(二宮和也)が自転車(ロードバイク、か?)で通学するときの画面の構図。背景は海、でそこから自転車に乗った二宮くんが坂道を駆け上がってくる。急なのぼり坂なので、徐々に二宮くんが現れてくる。一言で言うと、「ふ、ふりぃ~~」。「大丈夫か、蜷川幸雄…?」。

でね、ちゃんと最後まで観ましたよ。だいぶ苦しかったですが。

結論だけ言うとね、もう久しぶりに観たどうしようもない映画。脚本、役者、絵、演出、全部もう笑っちゃうくらいダメ。ここまでダメだと逆に痛快。

いちいち書く気力もないけど、1つだけ書いておくと、二宮くん。最近じゃ「うまい、うまい」って上げられてるそうなので、期待して観てたんだけど、全然下手くそじゃん。人殺しちゃう役なのに、狂気がちらりとも見えない。壊れゆくその過程が観てるこっちにまるで伝わってこない。「青の炎」って「若くて幼くてそれゆえに綺麗な、狂気」のことだって思ってた…俺が間違ってたのか?!これ観せられたら、今の持ち上げ方も、結局は、「”ジャニーズなのに”演技がうまい」っていう下駄はかされた括弧つきの評価なんじゃねぇの、って勘繰っちゃいます。

以上。

2007/02/11

パプリカ <2006/日本>

パプリカ <2006/日本>

★★★★☆☆☆☆☆☆ (4points)

あぁ、こりゃ、ダメだわ。映画の中で、ヒロイン(敦子)がダメダメ科学者に「あなたはいっつもそうやって”やりたいこと”だけやって、”やらなきゃいけないこと”はなに1つやらない。そうやってずっとマスターベーションしてればいいのよっ」みたいなことを言うシーンがあるんだけど、「え、それこの映画のことだよね?」って感じ。

※思いっきりネタばれしてますので未見の方はご注意を。

「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」の今敏。

特に「東京ゴッドファーザーズ」なんてもう奇跡的なくらい良かった。アニメには珍しく(あんまり観てないから単にわたしが知らないだけなのかもしれないけど)、ちゃんと物語が成立してる。しかも、飛び道具的ファンタジーに逃げ込むことなしに。場面設定やら、人物描写やら、物語の背景やら、そういう面倒な本の土台作りをちゃんとできる。それって、アニメにゃ稀有だ、とそう思ってました。

もっと言うと、宮崎駿の後をとって、”オタク以外にもちゃんと響くアニメ”を描いていくのは彼しかいない、とまでわたしゃ、思ってましたよ…。そこまで評価してるくらいだから、今作、そりゃ、どうしても期待しちゃうじゃない。

でもよ…。一口で言っちゃうとさ。

期待外れ、以上。

なんだよね。

絵も綺麗だし、アニメでしか描けない絵を十分に堪能させてももらえました…、その意味じゃ楽しめましたよ、そりゃ。

でもね、中途半端な感じがどうしても拭えない。

何が中途半端かって、以下2点。

その1。エロが中途半端。中途半端であるがゆえに、下品。

分かりやすく言うと、”とってつけたかのようなエロ”。

ヒロイン(敦子)の裸を描きたいがためだけに、「囚われの身に」的なシーンを挿入。前後の脈絡もなしに最後、理事長と戦う時に、パプリカが赤ちゃんの状態から理事長を吸い込みつつ徐々に成長していき…、おいおい、これもただパプリカの裸を描きたかっただけじゃねぇか!しかも、なんで乳首がそんなピンクなんだよ…。あぁ、オタクの、オタクによる、オタクのためだけの、とってつけたエロ描写。品がないちゅうのはこういうこと言うんだろうね。

どっかでも書いたけど、やるなら、ちゃんと、やれ。やれないなら、やるな。

その2。ファンタジーが中途半端。

物語も成立せず、エロで痺れさせてくれるわけでもなく、じゃあ、もう逃げるところなんてファンタジーしかないですよ(わたしは嫌いだけど)。でも、これまた、なんか既視感に溢れた映像のオンパレード。コピペの連続。

例の電化製品やら人形やらのパレードは平成たぬき合戦or千と千尋。所長がパプリカに侵食されて肥大化するシーンはもののけ姫のデエダラボッチ。最後の赤ちゃんが肥大化するとこはAKIRA、肥大化したパプリカが理事長と戦うシーンはさながらウルトラマン…。はぁ、君の想像力はその程度かい…。 あたしゃ、これをオマージュって呼んであげられるほどいい客じゃないです。

今敏、頼むから、技に溺れないで、周りの高い評価にも溺れないで、オタクにおもねることなく、ちゃんと「大人にも観れるアニメ」をもう1回作ってくれ。

2007/02/10

いまを生きる <1989/アメリカ>

いまを生きる <1989/アメリカ>

★★★★★★☆☆☆☆ (6points)

伝統やら規律やらの壁がちゃんと存在することは、それを乗り越えていく人間にとってある意味、幸せなことなのかもしれない。

「ふ~ん、よくできた映画ね」。その一言に尽きちゃう。

でも、わたしも三十路前の社会人なので、世に言われてるほどこの映画が自分に響かないその理由を考えてみたりした。

で、結果、そうじゃないかな、と思ったこと。

結局、自分の実体験として、こういう「ちゃんとした」学校で青春時代を過ごしたことがないから、この生徒たちがぶつかってる壁の重みやらが分からんのよ、正直。わたしが通った学校なんて、いわゆる私立の進学校なんだけど、ほんと自由で、制服もないし、髪染めてもOK。ピアスあけても「痛くねぇのそれ」ってな感じ。だから、伝統と規律を前にうだうだ逡巡する生徒たちの葛藤なんて、理解し切れちゃいないわけです、実際のところ。そりゃね、分かる気はするよ、頭では。正直、ちょっと泣いたりもした…。でも、やっぱり震えないんだよね。なんか他人事なので。

盗んだバイクで走り出しもせず、校舎の窓も割らずに、尾崎豊に震えた(つもりになってた)日々も、振り返ってみれば、たしかにあった…。でも、それってあくまで、「そんな自分が好きだったんだね、そのころは」、って一言に集約されちゃうくらいの出来事で…。

もはや、自分の体験に立脚しない底の抜けた物語に震えられるほど、ロマンチックにゃなれんのです、わたし。

2007/02/09

リンダ・リンダ・リンダ <2005/日本>

リンダ・リンダ・リンダ <2005/日本>

★★★★★★☆☆☆☆ (6points)

ゆるいゆるいって批判は全くナンセンスでしょう。だって、この映画、「バンドを組む→文化祭で演奏する」っていうひと昔前だったらお祭り騒ぎの出来事でも、もはや、ゆるくならざるを得ない今の高校生の日常(の痛さ)を描いた映画だもん。

文化祭で演奏することを目指してバンドを組む。で、日々練習の毎日、なんだけど、この日々のテンションが低い低い。

おいおい、それでいいのかよ、って感じ。バンドだよ、文化祭だよっ、おじさんの世代じゃ、そりゃもう一大事だよ…、それでいいのかよ、って。でね、その時点でふと思うわけ。あ、これ、わざとゆるいテンションで描いてるのね。最後の最後で思いっきり跳ぶために今は助走の時間帯なわけね、って。

で、最後、文化祭ですよ。はい、そろそろ爆発するぞ~、って観てるとさ…、これが爆発しそうでしねぇ~のよ、全然。跳びそうで跳ばないのよ…。えぇ~、これだけかよ~、映画の80%を占めるあの助走はなんだったのよぉ~、あれに耐えたおれの辛抱は報われないのかよ…。そんな感じ。

でもね、そのときまたふと思うわけ。あ、これ、これもわざとだ…。跳べ跳べと期待してみてるこっちに、「跳べるわけねぇだろ…」って鼻で哂ってる感じ。「現実はそんなにロマンチックじゃないよ」って最後にハシゴを外された感じ。

悪くないですよ。

2007/02/08

12人の優しい日本人 <1991/日本>

12人の優しい日本人 <1991/日本>

★★★★★★★★★☆ (9points)

文句なしの傑作。「いるいる、こういうやつ」ってキャラクターの連続。人間観察の妙。ここまでいくと職人技を超えて、神の域でしょう。でも、そんなコメディの裏側で、人間が人間を裁くということの難しさや危うさをちゃんと描いてるところに、三谷幸喜の奥行きを感じる。

いろんなところでもう何回も褒められてきた作品ですので、もういいかとも思いますが、絶賛しときます。

これ、すごいです。絶対、観るべきです。最近の三谷幸喜の作品なんて観なくていいから、これだけは観とくべきです。

表向きはコメディ。日本にも陪審員制度があるとの前提で、ひとくせもふたくせもある面々がああでもないこうでもないと、殺人事件の被疑者が有罪か無罪かを議論する。まぁ~、これが、個々のキャラクターがよく描けてる。ロジック無視で精神論で押しまくるやつあり、声の大きい他人の意見にすぐ擦り寄るやつあり、ちょっと斜に構えてお前らとおれは違うっていうメッセージを吐くことだけに執念を燃やすやつあり、とにかく早く会議を切り上げて帰ることだけを考えるやつあり。日々の会社での会議なんぞを思い出し、「あぁ、こういうやついるよなぁ~」の連続。人間観察もここまでいくと、ちょい怖いですね。圧巻です。三谷幸喜ちゅう人はいつも何考えて、人間と付き合ってんでしょうかね。

でもね。それだけだったら、たぶん、この映画、せいぜい★7つくらいでしょ。観終わって、はい、楽しかった~、で、おしまいだもん。

個人的な意見ですが、この映画、何がすごいって、コメディの裏側で、表立って主張してはみせないんだけど、人間が人間を裁くことの難しさや危うさをちゃんと描いてるところ。人が人を裁くっていうけど、裁く側の人間のレベルなんてこんなもんよ、ってとってもシニカルにみせてくれる。民主主義のありのままの実態、って言ったら大袈裟かな?でも、民主主義以上の仕組みを考えることができない以上、ぼくらはここから出発するしかないのよね、ってわたしはそこまで考えちゃいました。

陪審員制度というあり得ない設定がもはやあり得なくなくなった今にこそ、もいっかい、この映画見直してみるべきでしょう。

2007/02/07

スクール・オブ・ロック <2003/アメリカ>

スクール・オブ・ロック <2003/アメリカ>

★★★★★★★★★☆ (9points)

大好きです。何度も繰り返して観ていますが、ステージで黒人の太った女の子が歌い出すところで、わたし泣きます。自分の涙腺がもはや信じられません。

最高ですね。

「いまを生きる」なんかより、こっちの方に、より強く、”人生を、今を、ちゃんと楽しめ”ってメッセージを受け取ってしまうのは、わたしだけでしょうか?

ジャック・ブラックには可笑しさを超えて、神々しささえ、感じちゃいます。

2007/02/06

運命じゃない人 <2004/日本>

運命じゃない人 <2004/日本>

★★★★★★☆☆☆☆ (6points)

素直におもしろいですよ、これ。でも、脚本家の「これ、うまくない?」っていう「したり顔」が画面から滲み出ちゃってるので、好き嫌いは分かれるでしょうね。

脚本がよくできてます。複線を張りまくり、それが最後にちゃんとした形で収束します。うまい、です。

でも、それがこの作品の、いいところでもあり、また悪いところでもあり…。

こういう脚本勝負の映画(低予算だからそうならざるを得ないのは分かるんだけど)って、どうしても作家さんの技巧とそれをなんか見せびらかせてるような「してやったり感」を感じちゃうんだよね。「どう、これ?うまくない、おれ?ね、うまいしょ?」、みたいな。たしかに、うまいよ、そりゃ。でも、やっぱり、「だから、何?」って言いたくなる自分がどこかに、いる。ソフトウェアのプログラミングじゃないだから、そんな細かな「精緻化合戦」してどうなるよ、って。

でもね、そんなネガティブな思いをどこかに抱えつつも、素直に楽しめました。でも、あくまで、「楽しめた」ってだけで、後に何が残るわけじゃありませんが…。

2007/02/05

シリアナ <2005/アメリカ>

シリアナ <2005/アメリカ>

★★★★★★★☆☆☆ (7points)

分かりづらいことをちゃんと分かりづらく描くって結構勇気のいることなんじゃない?

この映画、わたしはとっても良いと思いました。

たしかに登場人物はやたら多いし、彼らの間の関係性もややこしいし、これといった主人公もおらず、したがって感情移入もへったくれもないし…、でもね、これってこの映画の「いいところ」だよ、全部。

石油利権に群がる得体の知れない連中と、その間で繰り広げられる暗闘を、分かりやすいドラマにしちゃっちゃぁ、おしまいでしょ。だから、これ、この方法しかないんだよ、ちゃんとこの題材を表現するには。っていう視点で見ると、この映画、良いです。

やたら分かりやすい安易なドラマの量産される中、観る側の期待値としても「分かりやすいことが前提条件」みたいな空気(分かりやすくないと感情移入できないし、感情移入できないと泣けないし、泣けないと映画観る意味ないし…、みたいな)が漂う中、こういう分かりづらい映画をちゃんと撮れるって、偉い。

2007/02/04

ゆきゆきて、神軍 <1987/日本>

ゆきゆきて、神軍 <1987/日本>

★★★★★★☆☆☆☆ (6points)

なんか分からないけどスゴイものに震える感覚。

奥崎謙三のベクトルが向かう方向性(暴力)は共感できないが、そのベクトルの長さ(強度)には正直震えた。共感するとかしないとか、理解できるとかできないとか、そんな範疇じゃないところで、なんかすげぇ…、と思った。頭でっかちになった世の中で、それでも人間は、人間のことば(論理的な正しさやら倫理的な正しさやら)にじゃなくて、その人の思い(情熱やら情念やら怨念やら)に動かされる生き物なのね…。

映画のいい所ってそういう「なんかよく分からない(=説明できない)けどすごい」ものを説明することなしに映像として提示できることにあるんじゃない?これ、ただただ「変なおじさん」を追いかけて撮り続けただけの映像なので「映画としては面白くない」とか言われてるけど、よくよく考えてみると映画の王道は踏み外してないんじゃないかな。

2007/02/03

ブラディ・サンデー <2002/イギリス・アイルランド>

ブラディ・サンデー <2002/イギリス・アイルランド>

★★★★★★★★☆☆ (8points)

怖い映画です。何が怖いって、市民を無差別に撃ちまくるパラシュート部隊の人間たちの、その小市民ぶりが、怖いです。そして、さらに、観てる自分も、状況次第で、彼ら同様の行動をとるかもしれない、その可能性が、怖いです。

鑑賞前の事前情報は、U2の「SUNDAY BLOODY SUNDAY」と、そこから連想される「デモ隊と警官の衝突でとんでもないことが起きたんだろうなぁ」というごくごく素朴な想像、それと、ベルリン映画祭金熊賞受賞ということ、のみ。

実はあんまり期待しないで観たのですが、正直、驚いた。

市民側と軍隊側で暗転する画面、手持ちカメラの臨場感、エンドロールの真っ暗な画面に流れる「SUNDAY BLOODY SUNDAY」などなど、痺れた箇所を挙げたらきりがないくらい。

でもね、そういう瑣末なことよりね、この映画、何がすごいって、ちゃんと物事の不条理を描けてるところ。そして、不条理を何かに回収しちゃうのではなくて、不条理を不条理としてそのまま描いているところ。

軍隊側に絶対的な悪人を置かず、あくまで、臆病で保身的で、それゆえに暴発しやすい小市民の狂気を描く。鍛えられたパラシュート部隊とはいえ、ひとりの人間である、という前提をけして踏み外さない。そして、人間であるがゆえに、時に、無意味な狂気へ至る。まさに、アイヒマンですな。例えば、この映画に、イギリス政府の陰謀なんて要素が入ってきちゃったら、もう台無しだが、そういう安易に流れないところに、感動した。

これぞ映画です。